示談のつもりが恐喝に?
刑事事件の被害者の立場で示談に応じたつもりが恐喝として捜査対象になってしまう場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説致します。
【ケース】
奈良県生駒市在住のAは、生駒市内の会社に勤める会社員です。
Aは職場内にて、上司であるXから陰部を揉みしだかれるなどの強制わいせつ罪に当たる可能性が高い事件の被害に遭いました。
そこでAはXに対し、「この件で、生駒警察署に行って被害届を出したら、Xさんはどうなりますかね?」「事件の現場はこの会社内ですから、警察が動くと実況見分調書や写真報告書を作るために警察の方が来られますよね。」と言いました。
XはAに対し「10万円払うので丸く収めてくれないか」と言ったところ、Aは「そんな安い金で受け入れられません。」と言い、最終的にAはXから現金100万円を受け取って終了しました。
後日、生駒市内を管轄する生駒警察署の警察官がAの自宅に来て、恐喝事件で被害届が出ていると説明し、Aを連行しました。
≪ケースは全てフィクションです。≫
【強制わいせつについて】
まず、Aは強制わいせつの被害に遭っている可能性があります。
Xが、暴行や脅迫を用いてAの陰部に触れるなどわいせつな行為をしていた場合、強制わいせつ事件に発展します。
暴行又は脅迫というのは、目に見える暴行や言葉での脅迫行為は勿論のこと、上司と部下という地位に乗じてわいせつな行為をした場合や、相手の隙をついて(抵抗する間もなく突然に)わいせつな行為をした場合にも、強制わいせつ罪が適用されます。
強制わいせつ罪の条文は以下のとおりです。
刑法176条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
【示談のつもりが恐喝に?】
上記のとおり、ケースの事案の前半部分はXによる強制わいせつ事件で、Aが被害者の立場になる可能性があります。
被害者は、警察などの捜査機関に相談・被害届の提出・刑事告訴などを通じて事件の申告をすることもできますし、それをしないという選択肢もあります。
後者を選択する条件として、示談を行うということが考えられます。
示談とは、当事者間の合意により被疑者(加害者)の反省や制限などを書類に落とし込むものです。
示談の締結時に示談金を明記し支払う場合が多いですが、示談には示談金が必ず必要というわけではありません。
ケースの場合、Aが示談を受け取るという点については、民事上自然であると考えられます。
しかし、Aは示談金を支払わなければ警察に届け出ると言い、届け出た場合にはXの行為が社員に知られるなどと脅しととられる言葉で、暗に示談金を要求しています。
これは、脅迫罪に当たる可能性があります。
脅迫罪は、人を恐喝することで財物を交付させることで成立する罪で、恐喝とは「害悪の告知」であるとされています。
脅迫罪は、Aのように示談金額を具体的に提示していない場合でも、適用されます。
また、Aは警察に届け出る行為をちらつかせています。
前述のとおり、被害者が警察に届け出る行為は正当ですが、判例は「犯罪事実を官憲に申告すること」も害悪の告知にあたると示しています。
【まとめ】
強制わいせつ罪は、暴行や脅迫を用いてわいせつな行為をすることで、上司と部下の立場を利用してのわいせつ行為や相手の隙をついてのわいせつ行為も強制わいせつ罪の対象とされています。
強制わいせつ事件の被害に遭われた方は、示談などにより示談金を受け取ることが可能な場合がありますが、示談をして示談金を払わなければ警察に届け出るなどの発言は恐喝罪に発展する可能性があります。
奈良県生駒市にて強制わいせつ事件の被害に遭ったものの、それがきっかけで恐喝罪の被疑者になってしまった方おられましたら、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所に御相談ください。