窃盗罪と占有離脱物横領罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
◇事例◇
奈良県香芝市に住むAさんは公園に立ち入ったところ、公園のベンチの上に財布(Vさん所有)が置かれてあるを見つけました。
Aさんは周りを見回しても誰もいなかったことから、「今なら盗れる。」と思い、財布を手に取り、カバンに入れて持ち去りました。
その後、Vさんから被害届を受けた奈良県香芝警察署の警察官が付近の防犯カメラを精査していたところ、Vさんの財布のようなものを手にとり、公園から出ていくAさんらしき犯人を特定しました。
ある日、奈良県香芝警察署の警察官に職務質問を受けたAさんは、カバンの中に入れたままにしていたVさんの財布が見つかってしまったので、財布を盗ったことを認めました。
Aさんは自分の行為が、窃盗罪か占有離脱物横領罪に当たるのかを刑事事件に強い弁護士に相談しました。
(フィクションです)
◇「窃盗罪」か「遺失物横領罪」か◇
Aさんは窃盗罪か占有離脱物横領罪かに問われる可能性があります。
窃盗罪は刑法235条に、占有離脱物横領罪は刑法254条に規定されています。
刑法235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
刑法254条
遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。
窃盗罪は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」、占有離脱物横領罪は「1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料」と両罪は法定刑に大きな違いがありますから、窃盗罪が成立するか占有離脱物横領罪が成立するかは大きな違いで、区別する実益があります。
◇窃盗罪と占有離脱物横領罪を区別する基準◇
窃盗罪と占有離脱物横領罪を区別する基準は、「被害者の財物に対する支配が及んでいるか否か」という点です。
及んでいる場合は窃盗罪、及んでいない場合は占有離脱物横領罪が成立します。
そして、支配が及んでいるか否かは
・財物自体の特性(貴重品か否か、大きさ、重さなど)
・占有者の支配の意思の強弱
・被害者が財物を取り戻すに行くまでの時間、距離
などの具体的事情から判断されます。
過去の判例では、
・バスに乗るために行列していた者が、カメラをその場に置き、行列の移動に連れて改札口近くに進んだ後、カメラを忘れたことに気づいたが、その間、時間にして約5分、距 離にして約19.58メートルに過ぎなかった事例(昭和32年11月28日)
・被害者が公園のベンチから約200メートル離れた駅の改札口付近まで約2分ほど歩いたところで、同ベンチに財布を置き忘れたことに気づいた事例(平成16年8月25日)
などで、「被害者に支配が及んでいる」とし、カメラ、財布を盗んだ犯人に窃盗罪を適用しています。
◇被害者の支配が及んでいなくても窃盗罪?◇
なお、被害者の支払が及んでいなくても別の者の支配が及んでいると認められる場合は、やはり窃盗罪が適用される可能性があります。
過去には(大判大8年4月4日)、「旅館内に旅客が置き忘れた財布」には旅館主の支配が及んでいるとして、財布を盗んだ犯人に窃盗罪を適用しています。
ただし、財物を置き忘れた場所が、一般人の立ち入りが自由な場所であって、管理者の排他的支配が完全でない場合(たとえば、電車内、電車・駅構内のトイレ内など)は、直ちにその場所の管理者の支配に移ることはないとされています。
◇示談による刑事処分の軽減を目指す◇
ご自身のしたことを認める場合には、直ちに被害者と示談交渉に入り示談を成立させましょう。
しかし、当事者同士の示談交渉では、感情の縺れなどから示談交渉を円滑に運ぶことができなかったり、仮に示談できたとしてもその内容が不十分で二次的なトラブルに発展しないとも限りません。
ですから、刑事事件に発展しかねない示談交渉は刑事事件専門の弁護士に任せた方がよさそうです。