口座を売っただけで刑事事件に?
銀行口座のキャッシュカードや通帳などを販売した場合の罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説致します。
【ケース】
奈良県奈良市大森町在住のAは、奈良市内の会社に勤める会社員です。
Aは生活苦に陥り、借金(融資)をしたところ、その金が返済できず、次第に借金が膨れ上がるにつれて借金する会社の数も増えてきました。
そのうちの会社に、借金の取り立てが厳しい会社があり、「借金を返さなければ出るところに出ても良いんだぞ」等と脅しを受けていました。
怖くなったAは何でもするから勘弁してほしいと言ったところ、「なら銀行のキャッシュカード1枚につき10万円、借金から引いてやるよ」と言われました。
その後、Aはメガバンクや地方銀行など十数社に行き銀行口座を開設し、キャッシュカードと通帳を受け取りました。
Aは指示に従い1円も入っていないキャッシュカードと通帳をすべて郵送したところ、後日、そのうちの1つの銀行から「犯罪に使われたので取引停止した」という連絡が来たため、Aは奈良市大森町を管轄する大森警察署の警察官に相談したところ、あなたも被疑者になると言われました。
≪ケースはすべてフィクションです。≫
不正取得の銀行口座は何に使われる?
ケースのAはキャッシュカードと通帳を送付していますが、その口座は全て1円も入っていないというものです。
これを受け取った者は、どうするのでしょうか。
結論から申し上げると、このような形で第三者に渡ったキャッシュカードや通帳は、特殊詐欺やマネーロンダリングなどの事件に用いられます。
実際の事件で耳にする内容としては
・ワンクリック詐欺やオレオレ詐欺、ロマンス詐欺などにおいて、被害者に金を送金させるための口座として利用する
・特殊詐欺事件で受け取ったキャッシュカードの現金を繰り返し他の口座に送金することで攪乱させる
・犯罪などで受け取った金を、複数の口座を介することで出所を不明にしてマネーロンダリング(資金洗浄)を行う
などがあります。
口座を売買した場合の罪
銀行口座を他人に譲り渡す行為は、犯罪による収益の移転防止に関する法律(通称、犯収法)に違反します。
条文は以下のとおりです。
犯収法28条1項 他人になりすまして…預貯金契約に係る預貯金通帳、預貯金の引出用のカード、預貯金の引出し又は振込みに必要な情報…を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者は、一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、預貯金通帳等を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者も、同様とする。
同2項 相手方に前項前段の目的があることの情を知って、その者に預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同項と同様とする。(略)
口座を作る行為そのものが犯罪になる?
前章で、銀行口座のキャッシュカードや通帳を譲り渡した場合に問題となる犯収法違反について説明しました。
以前から持っていた銀行口座のキャッシュカードや通帳を譲り渡した場合には犯収法違反だけが問題となりますが、Aの場合は、新たに銀行口座を開設したうえでそのキャッシュカードや通帳を譲り受けています。
この場合、銀行口座を開設してキャッシュカードや通帳を受け取った行為自体が、詐欺罪にあたります。
詐欺罪の条文は以下のとおりです。
刑法246条1項 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
銀行等で口座を開設する際、銀行等側は本人が利用することを確認する義務があります。
その際、第三者に譲り渡す、売ることを言わずに口座を開設した場合、相手を騙してキャッシュカードや通帳(=財物)の交付を受けることになるため、詐欺罪が適用されます。
口座凍結・ローンが組めなくなる
銀行口座の新規開設は基本的に費用が掛からないため、軽い気持ちでキャッシュカードや通帳の交付を受けたり、既に持っているキャッシュカードや通帳を譲り渡したりする事案は少なくありません。
しかし、この行為が発覚した場合には、銀行口座の凍結はもちろんのこと、新規開設ができなくなったり、ローンが組めなくなるなどの不利益が生じます。
そして何より、特殊詐欺などに利用されることで、被害者に甚大な損失を与えることに繋がります。
このような行為は絶対にやめましょう。
奈良県奈良市大森町にて、融資等の目的でキャッシュカードや通帳を譲り渡したり、新規口座開設してしまったという方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
在宅事件の場合、相談は無料です。