(1) 勾留とは
~勾留とは~
勾留とは、逮捕に引き続いて身体を拘束すること、または、被告人の身体を拘束することです。
~勾留の種類~
勾留には、起訴される前の起訴前勾留と、起訴された後の起訴後勾留という種類があります。
1 起訴前勾留
まだ起訴されていない容疑者に対する勾留です。
起訴前勾留は逮捕に引き続いて行われます。なので、警察や検察から捜査されたり取調べを受けたりしていても、逮捕されていなければ、起訴前勾留の手続によって身体を拘束されることはありません。
起訴前勾留は、現行犯逮捕のような急を要する場面で行われるものではないので、常に裁判官がその当否を判断します。
逮捕された容疑者について、次の条件があると認められたとき、起訴前勾留されることになります。
(1)勾留の理由がある
次のア、イに当たれば、勾留の理由があると認められます。
ア 罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること
イ 次のいずれかに該当すること
(ア)定まった住居がない
(イ)罪証隠滅のおそれがある
(ウ)逃亡のおそれがある
(2)勾留の必要がある
上のア、イの事由があったとしても、捜査のための利益より身体拘束から生じる不利益が重いような場合は、勾留の必要がなく、勾留することは認められません。たとえば、軽微な事件で容疑者が高齢・重篤な病気にかかっている等で身体を拘束することが相当でないような場合等が考えられます。
2 起訴後勾留
起訴された被告人に対する勾留です。
逮捕されて起訴前勾留された被疑者が引き続いて起訴後勾留される場合が多いですが、逮捕中に起訴前勾留を経ないで起訴された、或いは在宅で捜査をしていたが起訴後に身体を拘束する必要があるということで、起訴後勾留されることも稀にあります。
起訴後勾留が認められるには、起訴前勾留と同じく、勾留の理由及び必要性があることが条件になります。
起訴前勾留との違いは、後にも述べますが、保釈という手続きで釈放してもらえる場合があることです。
(2)勾留されたらどうなるのか
~起訴前勾留~
逮捕から引き続いて行われます。なので、逮捕から勾留に移る間に家に帰ったりすることはできません。
1 勾留請求
検察官は、逮捕した容疑者を更に身体拘束する必要があると考えた場合、裁判官に
勾留を請求します。
2 勾留質問
容疑者は裁判官のところに連れて行かれます。裁判官は、容疑者に事件について告げ、これに対する容疑者の陳述を聞きます。この手続を勾留質問と言います。
勾留質問をした結果、勾留の理由や必要性があると判断されれば、裁判官は勾留状を発します。これで容疑者の身体拘束は逮捕から勾留に切り替わります。
3 勾留される期間
起訴前勾留の期間は、勾留請求の日から数えて10日間です。10日間が経って、やむを得ない事由があるときは、そこから更に最大10日間延長されます。つまり、起訴前勾留を受けたら最大20日間は身体を拘束されるということになります。勾留の延長にはやむを得ない事由が必要なのですが、多くの場合、それは認められてしまうので、延長されることは予め想定しておきましょう。
勾留期間中は、留置場等に入れられて自由を奪われ、外部との連絡にも非常に制限を受けた状態に陥ります。そのような状態で、逮捕中と同じく、取調室などに引き出されて、警察や検察の厳しい取調べを受けることになります。しかも今度は、逮捕された時から引き続いて、最大20日間続くことになります。身体的にも精神的にも非常に厳しい負担を強
いられます。
~起訴後勾留~
1 起訴前勾留から起訴後勾留への切り替わり
起訴前勾留されている容疑者が起訴されると、起訴後勾留に切り替わります。
この切り替わりに当たっては、特に何か手続が採られることはありません。起訴されたことで、自動的に切り替わります。起訴前勾留から起訴後勾留に移る間に家に帰ったりすることはできません。
2 勾留質問
起訴前勾留を受けていない場合は、起訴前勾留のところでも述べた勾留質問を受けて、勾留されることになります。
3 起訴後勾留の期間
起訴後勾留の期間は、起訴された時から2か月です。その後、特に継続の必要がある場合は、そこから1か月間延長され、以後1か月毎に更新されていきます(更新が1回に限られる場合もありますが、例外的な場合です)。特に継続の必要がある場合といっても、多くの場合、それは認められてしまいます。起訴前勾留と異なって期限の最大日数に特に制限はないので、裁判が終わるまでずっと身体を拘束され続けることもあります。
起訴前勾留と同じく、起訴後勾留の期間中も、留置場等に入れられて自由を奪われ、外部との連絡にも非常に制限を受けた状態に陥ります。もっとも、起訴後勾留は、捜査中の容疑者に対する勾留ではなく、既に捜査を終えて起訴すると決められた被告人に対する勾留です。なので、取調室などに引き出されて取調べを受けることはあまりありません。捜査を終えているからには、これ以上事件について取り調べる必要はないからです。
留置の場所も、警察などの留置施設に留置されていたのであれば、拘置所という施設に移ることになるでしょう。
(3)どうすれば釈放されるのか,どうしても釈放されたい事情がある
~釈放される方法~
勾留された場合でも、手続の節目ごとに釈放される機会があります。また、勾留されてい
る期間を通じて、身体解放を目指すための手段があります。
~勾留質問~
前記のとおり、勾留請求されたときには、裁判官のところに連れて行かれて勾留質問をされます。
この時に、勾留の理由や必要性がないことを主張し、それを聞き届けてもらえれば、裁判官が勾留請求を却下し、釈放される可能性があります。
ただし、勾留質問のときには弁護士などが立ち会うことはできませんので、法律の専門家の力を借りずに、自分の主張を法的に適切に裁判官に伝えるというのは非常な困難が伴います。実際にも、ここで釈放されることはなかなかありません。
~起訴前勾留されたときに釈放を目指す方法~
起訴前勾留されることになってしまったら、準抗告、勾留取消請求、勾留の執行停止などの方法で釈放を目指します。
1 準抗告
勾留によって身体を拘束するには、前記のとおり,勾留の理由と必要性があると認められる場合でなければなりません。勾留の理由と必要性が存在しないにもかかわらず、裁判官がそれらが存在すると考えて勾留決定をした場合、その決定が本当に正しいのかどうかを準抗告の手続によって裁判所に審査してもらうことができます。準抗告が認められると,釈放されます。
準抗告は、同じ勾留決定に対して1回しか申し立てることはできません。
準抗告は,勾留決定の当否を判断するものですが,勾留決定をした当時の事情だけでなく,勾留決定後の事情(たとえば,勾留決定後に被害者と示談できた等)も事実上斟酌してもらえることが多いようです。なので、勾留決定当時にはまだ示談できていなくても、勾留期間内に示談できれば、準抗告申立ての際に、示談できたことを有利な事情として主張できます。
準抗告での判断に対しては、憲法違反等特別な理由がある場合を除き、更に審査を求めることはできません。
2 勾留取消請求
起訴前勾留の決定がされた後でも、勾留の理由や必要性がなくなれば、勾留し続ける法律上の根拠がなくなることになります。
なので、勾留された後に勾留の理由や必要性がなくなった場合、例えば、被害者との間での示談が成立した、或いはご家族との同居が可能になったなどの事情で、勾留の理由や必要性がなくなったと言えるような場合は、勾留取消請求をします。
勾留取消請求は、勾留決定をした裁判官に対して請求します。勾留が取り消されれば、釈放されます。
準抗告とは違い、回数に制限はありません。
3 勾留の執行停止
準抗告や勾留取消請求が認められないとしても、病気治療のための入院、ご家族の方の危篤又は死亡、ご実家が大規模災害に遭遇した、就職試験、入学試験等、どうしても釈放されたい事情がある場合には、勾留の執行停止を申し立てることになります。
そのような事情がある場合、それが適当と認められれば、住居の制限などの条件を付けたりして、一時的に釈放されます。
勾留の執行停止は、勾留決定をした裁判官に対して請求します。緊急の必要がある場合の措置という事柄の性質上、特に申立ての期間や回数に制限はありません。
~起訴前勾留の期間が延長されたときに釈放を目指す方法~
起訴前勾留は、前記のとおり、延長される場合があります。
1 準抗告
延長された場合、準抗告をして延長の理由がないことを主張し、釈放を目指します。
勾留延長の決定は勾留決定とはまた別の決定なので、勾留決定に対する準抗告をしていても、勾留延長に対する準抗告をすることができます。ただし、勾留決定に対する準抗告と同様、同じ勾留延長決定に対して何度も準抗告することはできません。
2 勾留取消請求や執行停止の申立て
勾留延長が決定されても、あとから勾留の理由や必要性がなくなったり、緊急の事情が起こったりすることは当然あり得ますので、勾留取消請求や執行停止の申立てもすることができます。
~起訴後勾留されたときに釈放を目指す方法~
起訴後勾留では、保釈請求という方法を使えるのが最大の特徴です。
1 保釈請求
保釈請求については「保釈について」のページで別に詳細に解説します。
2 勾留取消請求や執行停止の申立て
起訴後勾留でも勾留取消請求はできますが、保釈請求をすれば同じなので、することはないでしょう。
勾留の執行停止の申立ては、緊急の必要があればできるので、使うことができます。
~起訴後勾留の期間が延長されたときに釈放を目指す方法~
起訴後勾留も、前記のとおり、延長される場合(法律上は「更新」)があります。延長された場合、抗告をして延長の理由がないことを主張し、釈放を目指します。
もっとも、起訴後勾留の場合は、保釈請求をすることの方が多いでしょう。
このように、勾留された場合でも、手続の節目ごとに釈放される機会があります。また、勾留されている期間を通じて、釈放を目指すための手段があります。できるだけ早期に釈放されるには、これらのような手段を有効に使う必要があります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事手続のあらゆる段階で、早期の釈放を実現すべく、最善の弁護活動を展開します。釈放を目指す弁護活動は手続の初期ほど効果が大きいため、逮捕されてしまった場合はいち早くご相談ください。
(4)面会や差入れをしたい
~ご家族や友人の面会・差入れ~
逮捕されている間と異なり、ご家族や友人が面会や差入れをすることが、基本的に可能となります。
ただし、自由にはできません。
1 制限時間や回数制限など
ご家族や友人などの面会には時間制限があります。概ね、平日の午前9時から午前11時30分と午後1時から午後4時、1日1回で15分までと決まっていることが多いです。なお、取調べ中だったりすると、面会させてもらえません。
また、面会に当たっては警察官が立ち会います。事件について通謀していると思われるような発言は制止させられます。
2 差入れの制限
何でも差入れられるわけではありません。自殺や自傷を防ぐため、フード付きのパーカーやひも付きのパンツなどひも状の細長い物がついている物、プラスチック製ファイルやホッチキス止めされた雑誌など薄く硬い物の差入れは禁止されています。
また、食品の差入れもできません。法律上は「糧食の授受を禁じ、又はこれを差し押えることはできない」とされているのですが、保健衛生および規律保持などから、実際には、金銭を差し入れ、その金銭を使って被疑者が指定業者の飲食物を購入するということにされています。
書籍などは、一回で入れることのできる量に制限があります。
何をどれだけ入れることができるのか、差入れをする前に、留置されている警察署に確認するなどした方が良いでしょう。
3 接見等禁止
上のような制限の他、裁判所や裁判官は、面会や差入れをすることを禁止してしまうこともできます。そうなると、面会は禁じられ、差入れもできなくなります。
このような禁止がされた場合は、準抗告等の手続を使って接見等禁止を解いてもらわなければなりません。接見等禁止を全面的に取消すことができなくとも、家族についてだけは接見等禁止決定を取消すことを求めることもできます。
~弁護士の面会~
裁判で適切な主張ができるように打ち合わせたり準備したりするために、弁護士は、ご家族や友人のような制限を受けずに面会できることが保障されています(差入れには制限はあります)。
弁護士は、起訴前勾留の段階では、取調べ中などの場合を除いては、立会人や時間などの制限なく面会することができます。起訴後勾留の段階では、拘置所での接見の場合には、弁護人であったとしても平日の昼間のみの接見しか認められません。
逮捕され、勾留された方は、密室で行われる取調べに耐えなければならない上に外部との連絡も絶たれ、想像もつかないような心理的な負担を受けることになります。このような状況では、取調べで対応を誤り、取り返しのつかない事態を招くおそれがあります。このようなことにならないためには、速やかに弁護士が面会することで、安心していただくこ
とが大切です。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件を中心に扱う弁護士が直ちに接見に駆けつけ、逮捕・勾留された方やその家族をサポートし、不安を取り除き、事件解決に向けて尽力します。
家族が勾留されてお困りの方は、是非一度ご相談ください。
(5)なぜ勾留されてしまったのか知りたい
~勾留された理由を知る方法~
勾留によって身体を拘束するには、前期のとおり、その理由が必要になります。しかし、発せられた勾留状に書いてあるのは「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」「逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由がある」というくらいで、その具体的な内容はわかりません。
そこで、勾留された理由を説明してもらうため、勾留理由開示という手続を請求することができます。
勾留理由開示請求がされると、法廷が開かれます。その法廷で、勾留されている本人及びその弁護人に対して、裁判官が勾留の理由を説明します。検察官も出席できますが、出席義務はありません。
~勾留理由開示請求をするメリット~
勾留理由開示請求をすることで、勾留されている理由を聞くことができます。
また、次のようなメリットがあります。
- 勾留されている本人及びその弁護人が意見を陳述することができるので、勾留の理由がないことを裁判官に直接聞いてもらうことができる。
- この場での意見陳述は裁判官の前での自由な発言なので、取調べでの供述よりも証拠としての値打ちが高い。
- 連日の身体拘束状態から、一時的とはいえ、解放感を味わえる。
- 勾留理由開示手続は公開の法廷で行われ、誰でも自由に傍聴できるので、前記の接見等禁止がされていても、この時には家族や友人が傍聴席にやってきて、お互いに顔を見ることができる。