~協議・合意制度とは~
協議・合意制度とは、被疑者・被告人が,他人(標的者)の犯罪について訴追(捜査・公判)に協力することと引き換えに,弁護人の同意の下,検察官が協力した被疑者・被告人(協力者)に恩典を付与することを合意する制度です。
~特定犯罪~
協議・合意制度の対象は,刑事訴訟法350条の2第2項に規定する特定犯罪に限定されています。
特定犯罪は,次のとおり,大別して組織的犯罪と財政経済犯罪があります。なお,殺人,強姦等の生命・身体犯は含まれず,死刑または無期の懲役・禁錮に当たる罪も除外されています。
1 刑法犯
- 封印破棄,強制執行妨害関係(刑法96条~96条の6)
- 文書偽造等(刑法155条,155条の例により処断すべき罪,157条,158条,159条~163条の5)
- 贈収賄関係(刑法197条~197条の4,198条)
- 詐欺等,背任,恐喝,横領,業務上横領,遺失物横領(刑法246条~250条,252条~254条)
2 組織的犯罪処罰法
組織的犯罪処罰法に係る強制執行妨害関係,詐欺,恐喝,犯罪収益隠匿,犯罪収益収受(組織的犯罪処罰法3条1項1号~4号,13号,14号,4条(3条1項13号,14号に係る部分),10条,11条)
3 財政経済犯罪
租税法,独禁法,金融商品取引法の罪,その他の財政経済関係犯罪として政令で定めるもの(不正競争防止法の外国公務員贈収賄罪等)
4 爆発物取締罰則,大麻取締法,覚せい剤取締法,麻薬及び向精神薬取締法,武器等製造法,あへん法,銃砲刀剣類所持等取締法,いわゆる麻薬特例法
5 上記各特定犯罪を本罪とする犯人蔵匿,証拠隠滅,証人威迫,組織的犯罪処罰法に係る犯人蔵匿,証拠隠滅,証人威迫(刑法103条,104条,105条の2,組織的犯罪処罰法7条1項1号~3号,7条の2)
~協議・合意制度の当事者~
合意の当事者は,検察官と被疑者または被告人です。被疑者または被告人には,法人も含まれます。弁護人は,合意の当事者ではありません。
合意制度で,当事者が合意できる行為は,以下の行為とされています(刑事訴訟法350条の2第1項)。二つ以上の行為を合意の対象とすることもできます。
1 合意事件の被疑者・被告人(協力者)がなし得る行為
- 他人の刑事事件について被疑者・参考人の取調べで真実の供述をすること。
- 他人の刑事事件について証人尋問で真実の供述をすること。
- 他人の刑事事件について捜査機関による証拠収集に関し,上記(1)、(2)を除いた証拠提出その他の証拠収集に必要な協力をすること。
2 検察官がなし得る行為
- 不起訴処分
- 公訴取消
- 特定の訴因・罰条での起訴とその維持
- 特定の訴因・罰条の追加・撤回・変更の請求
- 特定の求刑
- 即決裁判手続の申立て
- 略式命令の請求
3 1及び2の行為に付随する事項その他の合意の目的を達するため必要な事項
~合意の効果~
合意が成立した場合,合意の当事者は合意内容の履行義務を負います。
合意の履行を確保するための方策として,当事者の合意違反の効果が規定されています(刑事訴訟法350条の13~350条の15)。例えば,合意違反の場合,原則として当該協議の過程での供述を証拠として使用することができなくなります。もっとも,当該供述を下に発見された証拠(派生証拠)は使用禁止になりません。
~刑事免責制度とは~
証人尋問を受ける際,供述しようとする内容が,自己の犯罪にかかわる場合は,その供述をもとに処罰を受ける可能性があるため,証言を拒絶することができます(刑事訴訟法146条)。
そこで、他人の刑事事件について、証言拒絶権を行使できなくする代わりに、証言内容やそこから派生した証拠の利用を証人自身の刑事事件で利用できなくすることで、他人の刑事事件に関する証言を得ることができるようにするという制度が,刑事免責制度です(刑事訴訟法157条の2・157条の3)。
~対象犯罪~
協議・合意制度と異なり,対象犯罪に限定がありません。刑事免責制度は,全ての犯罪で利用することができます。
~他人の刑事事件であること~
証人として出廷させることを前提とするものですから,他人の刑事事件の中で,供述することが求められます。
~要件~
検察官は,当該事項についての証言の重要性,関係する犯罪の軽重及び上場その他の事項を考慮し,必要と認めるときに刑事免責制度の利用を裁判所に請求できます。
具体的には,その証人の証言が,犯罪立証に不可欠かどうかや,訴追されている罪の法定刑などを考慮して決定すると考えられます。
検察官からの請求に対し,裁判所が免責決定をします。
~効果~
免責決定を受けると,その証言は証人自身の刑事事件で不利に利用することができなくなります。従って,刑事免責制度で供述を強制された証言に基づいて処罰を受けることはありませんし,証言から派生した証拠を用いることも出来ません。そうすると,証言すればするほど派生証拠になる証言が増え,免責の範囲を広げることができます。
ただし,犯罪行為を免責する規定ではありませんから,証言や、それから派生した証拠以外の証拠を用いて犯罪を立証することができる場合には,訴追をされる可能性があります。
また,証言の内容を事実上の参考とすることは可能となっています。従って,検察官が,黙秘をしている被疑者・被告人を証人として呼び,刑事免責制度を利用して強制的に証言をさせることで情報を得ようとするということも考えられます。なお,免責決定が出ている状況では,証言拒絶は証言拒絶罪(刑事訴訟法161条)の対象となります。