~DVとは~
DVは、ドメスティック・バイオレンスの頭文字を採った略語です。
ドメスティック・バイオレンスとは、同居関係にある配偶者間や内縁関係、更には元夫婦や恋人などの近親者間で起こる暴力をいいます。暴力といっても、身体的暴力に限らず、相手に暴言を吐き、自尊心を傷つけたり、監視したりといった精神的暴力、生活費を渡さなかったり、就労を妨害するなどの経済的暴力、性交を強要するなどの性的暴力も含まれ
ます。
~配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)~
保護命令に違反した者は,1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処されます(DV防止法第29条)。
~保護命令~
配偶者からの身体に対する暴力又は配偶者から被害者の生命または身体に対して害する旨を告げる脅迫を受けた被害者が,さらなる暴力や脅迫によりその生命または身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときは,裁判所は,次のような命令を出します。
1 接近禁止命令(DV防止法第10条第1項第1号)
加害者が被害者の住居その他の場所において被害者の身辺につきまとい,又は被害者の住居,勤務先その他の場所の付近を徘徊することを6か月間禁止する命令
2 退去命令(DV防止法第10条第1項第2号)
加害者が被害者とともに生活の本拠としている住居から2か月間退去すること及びその住居の付近の徘徊を禁止する命令
3 電話等禁止命令(DV防止法第10条第2項)
6か月間、加害者から被害者に対する面会の要求、深夜の電話やファックス送信、メール送信などの迷惑行為を禁止する命令
4 子への接近禁止命令(DV防止法第10条第3項)
被害者が加害者と面会することを余儀なくされることを防止するため、6か月間、子の住居、就学する学校その他の場所において、その子の身辺につきまとい、又はその子の住居、就学する学校その他その通常所在する場所の付近を徘徊することを禁止する命令
5 親族等への接近禁止命令(DV防止法第10条第4項)
被害者がその親族等に関して加害者と面会することを余儀なくされるとを防止するため、6か月間、親族等の住居等の場所において当該親族等の身辺につきまといや徘徊することを禁止する命令
なお、虚偽の記載のある申立書により保護命令の申し立てをした者は10万円以下の科料に処されます。
~配偶者~
「配偶者からの暴力」とは、配偶者からの身体に対する暴力又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動です。
「配偶者」には、婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含み、離婚又は事実上離婚したと同様の事情があった後も引き続き暴力を受ける場合も「配偶者」に含まれます。
また,「配偶者」だけでなく生活の本拠を共にする交際をする関係にある相手からの暴力及び当該暴力を受けた者について準用されています(第28条の2)。
~ストーカー~
ストーカーとは、他人につきまとう者のことです。
他人につきまとう行為はつきまとわれた者に恐怖を与え、精神的な苦痛を与えるだけでなく、更に傷害、殺人などの凶悪な事件に発展する可能性があることから、ストーカー行為等の規制等に関する法律(ストーカー防止法)が定められました。
ストーカー防止法では、つきまとい等行為やストーカー行為といった類型を定めてこれらを禁止し、これに違反した者を処罰しています。
~つきまとい等~
ストーカー防止法2条1項で「つきまとい等」という行為のカタログが定められています。
つきまとい等とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、その特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他その特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次のような行為をすることです。
- つきまとう、待ち伏せする、進路に立ちふさがる、住居等の付近で見張りをする、住居等に押し掛ける、住居等の付近をみだりにうろつく
- 行動を監視していると思わせるような事を告げたりする
- 面会、交際その他の義務のないことをするように要求する
- 著しく粗野又は乱暴な言動をする
- 無言電話をする、拒否されたのに連続して電話をかけたりFAXをしたりメールを送信したりする
- 汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送りつける
- その名誉を害する事項を告げたりする(名誉毀損と違い、公然性は必要はありません。本人しかいないところでこのようなことを告げたりしてもこれに当たります)
- 性的羞恥心を害する事項を告げたり、そのような文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を送りつけたり送信したりする
このような行為をして、相手方に身体等への不安を与えることは、ストーカー防止法3条で禁止されています。
~ストーカー行為~
ストーカー防止法2条2項はストーカー行為について定めています。
ストーカー行為とは、つきまとい等を同一人に対して反復して行うことです(つきまとい等の内、1から4と、拒否されたのに連続してメールを送信したりする行為については、身体等への不安を覚えさせるような方法で行われることが条件になります)。
ストーカー行為はつきまとい等行為を反復して行うことなので、当然、ストーカー防止法3条で禁止されます。また、以下に述べる禁止命令がされていなくても直ちに処罰の対象になります。
~警告・禁止命令~
つきまとい等があり、更に反復してつきまとい等がされるおそれがある場合、警察署長等は、被害者の申出又は職権で、更に反復してつきまとい等をしてはならない旨を警告することができます(ストーカー防止法4条1項)。
また、ストーカー防止法3条の禁止に違反する行為があり、更に反復して違反行為が行われるおそれがある場合は、都道府県公安員会は、更に反復して違反行為をすることを禁止する命令をしたり(ストーカー防止法5条1項1号)、更に反復して違反行為が行われることを防止するために必要な事項を命令することができます(ストーカー防止法5条1項
2号)。
~ストーカー防止法の罰則~
ストーカー行為をした者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されます(ストーカー防止法18条)。
上に述べた禁止命令に違反して禁止命令後にストーカー行為をした者は、2年以下の懲役または200万円以下の罰金に処されます(ストーカー防止法19条1項)。
禁止命令以前のつきまとい等と合わせてストーカー行為になるようなつきまとい等をした者も、同じように2年以下の懲役または200万円以下の罰金に処されます(ストーカー防止法19条2項)。
禁止命令に違反した者は、6月以下の懲役または50円以下の罰金に処されます(ストーカー防止法20条)。
~ストーカー防止法以外のストーカーへの罰則~
ストーカー防止法のつきまとい等には当たらなくても「他人の進路に立ちふさがつて、若しくはその身辺に群がつて立ち退こうとせず、又は不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとつた」(軽犯罪法1条28号)に当たれば、軽犯罪法違反として、拘留または科料に処されます。
性的な画像をばら撒いたりネット上に流せば、リベンジポルノ防止法違反やわいせつ物頒布(刑法175条)になります。その相手が18歳未満の児童だと、児童ポルノ所持に問われます。
16歳未満の者に対してわいせつな目的で面会を要求した場合には刑法上の面会要求の犯罪が成立することもあります。
各都道府県の迷惑防止条例等でも、独自のストーカー規制があります。
また、刑法に触れる行為をすれば、当然、刑法上の責任を問われます。
~弁護活動の例~
1 DV防止法違反
DV防止法違反事件では,被害者が加害者と同居しているため、罪証隠滅の可能性が高いとみなされ,逮捕,勾留されるおそれが大きいと言えます。
保護命令が出ていなければDV防止法違反には当たりませんが、暴行や脅迫に当たる行為があれば,同じ理由から、身体拘束されるおそれが大きいでしょう。
身体拘束されると、家庭内の暴力に離婚なども絡むことから,検察官が示談が成立するのを待って処分を遅くすることがあり得ます。示談締結までが長引くと、身体拘束も長引くおそれがあります。
これに対しては、被疑者側の親族に身元引受人になってもらい身元引受の上申書を作る,被害者に近づかないとの誓約書を作成する,などの方法で、罪証隠滅のおそれがないことを主張して勾留からの解放を目指して弁護活動をしていきます。
2 ストーカー規制法違反
ストーカー行為はその性質上被害者に再接触する可能性が高く罪証隠滅のおそれが高いとしてしばしば勾留されます。また,前科がなくとも罰金に留まらず懲役刑を科される可能性が十分にあります。
このような重い処分を回避するためには、示談の成立が重要になります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では,身体解放に精通した弁護士が,被疑者が釈放されるために家族の方のご協力の下被疑者の身元引受・監視体制が万全であることを示して勾留を阻止します。