(1)犯罪とは
~犯罪とは~
犯罪とは、法律の定める構成要件に該当する違法かつ有責な行為のことを言います。
1 法律の定める構成要件
憲法31条は「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」と定めていますが、この定めは、法律の定める手続によらなければ処罰されないというだけでなく、処罰されるべき行為、即ち構成要件は、予め法律に定められていなければならないことも含みます。
従って、傍目にはどんなに悪いことをしているように見えても、それを処罰する法律がなければ、それは犯罪ではありません。
2 違法
法律に定めた構成要件に該当する行為は、国家が処罰に値する悪質な行為として定めたものなので,原則として違法であると言えます。
しかし、状況によっては、構成要件に該当する行為でも、なお違法ではないと言える場合があります。正当行為、正当防衛、緊急避難に当たる場合は、構成要件に該当する行為ではあるが処罰に値する悪質な行為ではないので、違法な行為とは言えず、犯罪とはなりません。
3 有責
行為に対して処罰を与えるためには、その行為者の責任であると言えなければなりません。その者の責任であると言えるためには、行ってはならない行為であると知りながら敢えてそれを踏み越えて行ったと言えなければなりません。従って、精神の疾患などが原因で物事の善悪を認識する能力が欠けていたり、そうした認識に従って行動する能力が欠けていたりした場合は、その行為はその者の責任によって引き起こされたとは言えず、犯罪とはなりません。
また、そうした能力があっても、適法に振る舞うことが期待できないような状況であれば、その行為もその者の責任によって引き起こされたとは言えず、犯罪とはなりません。
(2)他人と共に行ったこと,他人にさせたことが犯罪になる場合
~他人の犯罪への関与も犯罪に当たる~
自分自身では犯罪の構成要件に当たる行為はしていなくても、他人が犯罪の構成要件に当たる行為をするのに関与した場合、その関与の形態に応じて、罪に問われることになります。
ア 間接正犯
他人を道具のように利用して、自己の犯罪を行う場合です。
たとえば、医師が患者を殺害するために、全く事情を知らない看護師に、薬の注射と偽って毒物を患者に注射させて殺害した場合などです。医師は自分自身では全く毒物の注射はしていませんが、医師には殺人罪が成立します。
イ 共同正犯
意思を通じて犯罪を共同して行う場合です。
例えば、二人組で、一人が被害者を暴行・脅迫して犯行抑圧状態にして、もう一人が金品を奪った場合、この二人は、それぞれ強盗罪の構成要件該当行為の一部分しか行っていませんが、二人ともに強盗罪が成立する可能性があります。
ウ 教唆犯
他人を唆して犯罪の実行を決意させる場合です。
他人が唆されたことで犯罪の実行を決意し、その犯罪を実行した場合、唆した者は、自分ではその犯罪を行っていなくても、教唆犯として処罰されます(刑法61条1項)。
エ 従犯
実行行為以外の行為で、正犯の実行行為を容易にする行為一般を言います。
たとえば、正犯が被害者の家に侵入して盗みを行おうとするのに当たり、侵入を容易にするための梯子や窓開け用の器具を用立てたりした場合、自分では盗みを行っていなくても、窃盗の従犯として処罰される可能性があります(刑法62条1項)。
オ 共謀共同正犯
自分では実行行為を全く行っていなくても、犯罪行為の背後の黒幕的な存在であれば、正犯として処罰に値します。
そこで、2人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互に他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よって犯罪が実行された場合、共謀共同正犯として、正犯として処罰されます。
例えば、暴力団の幹部が,ボディーガードの組員たちに対して拳銃を携行して自分を警護するように直接指示をしていなくても,組員たちが自発的に幹部を警護するために本件拳銃等を所持していることを認識してそれを受け入れており,そのことを組員たちも承知しているような場合、幹部と組員たちとの間に拳銃の所持につき意思の連絡があったと言え、実質的には,幹部が組員たちに拳銃を所持させていたとして、幹部には銃砲刀剣類所持等取締法違反の共謀共同正犯が成立します。