~自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律~
人身事故については「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(自動車運転死傷行為処罰法)により処罰されます。
~危険運転致傷罪~
1 酩酊運転(自動車運転死傷行為処罰法第2条第1号)
アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ,よって,人を死傷させる罪です。
道路交通法上の酒酔い運転罪よりも要件が厳しい一方で刑罰が重くなっています。
飲酒だけでなく,薬物により正常な運転が困難な場合も該当します。
2 制御困難運転(自動車運転死傷行為処罰法第2条第2号)
進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させ,よって,人を死傷させる罪です。
速度違反のように何キロオーバーということが数値で決まっているわけではなく,道路状況や事故状況に応じて判断されます。
3 未熟運転(自動車運転死傷行為処罰法第2条第3号)
進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ,よって,人を死傷させる罪です。
「進行を制御する技能を有しない」とは,基本的な自動車操作の技能を有しないことをいいます。長年ペーパードライバーであったような場合も含まれます。
4 妨害運転致死傷(自動車運転死傷行為処罰法第2条第4号)
人または車の通行を妨害する目的で,通行中の人または車に著しく接近し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し,よって,人を死傷させる罪です。
急な割り込み,幅寄せ,あおり,対向車線へのはみだし行為などにより,他車のハンドル操作を誤らせて死傷事故を起こしたような場合をいいます。
「妨害する目的」とは,動機であり,相手方に衝突を避けるための急な回避措置をとらせるなど,相手方の自由かつ安全な通行の妨害を積極的に意図することをいいます。何らかの事情でやむなく割り込むような場合には,相手方の通行を妨害することになると認識していても,本罪は成立しません。
5 信号無視運転致死傷(自動車運転死傷行為処罰法第2条第5号)
赤色信号またはこれに相当する信号を殊更に無視し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し,よって,人を死傷させる罪です。
「殊更に無視」とは,赤信号であることを認識している場合のみならず,およそ赤色信号標識に従う意思のない場合をいいます。単に赤色信号であることを見過ごした場合は「殊更に無視」には当たりません。
6 通行禁止道路運転(自動車運転死傷行為処罰法第2条第6号)
通行禁止道路を運転し,よって,人を死傷させる罪です。
他の時間は通行禁止になっていなくても,通学の時間などに限って通行禁止になっている道路も通行禁止道路に当たります。
~準危険運転致死傷罪~
アルコールや薬物,あるいは一定の病気による影響により,正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で,自動車を運転し,よって,そのアルコール又は薬物,あるいはその病気の影響により,正常な運転が困難な状態に陥り,人を死傷させた場合に成立します。人を負傷させた場合には,12年以下の懲役が,人を死亡させた場合には,15年以下の懲役が科されます(自動車運転死傷行為処罰法第3条)。
「正常な運転が困難な状態」までいかなくとも,「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」で「正常な運転が困難な状態に陥り」人を死傷させた場合に成立します。
~アルコール等影響発覚免脱罪~
アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合において、その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、更にアルコール又は薬物を摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることその他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をしたときは、12年以下の懲役に処する(自動車運転死傷行為処罰法第4条)。
例えば,飲酒運転をして人身事故・死亡事故を起こし,その場から逃走した場合や,水を大量に摂取してアルコール濃度を減少させた場合などがこれに当たります。
これは,飲酒運転の逃げ得を許さないため,通常の場合に比べ,重い罰則を科しています。
なお,その場から逃走した場合には,アルコール等影響発覚免脱罪と同時に轢き逃げも成立することになり,併合罪となって最高刑は懲役18年になります。
~過失運転致死傷~
自動車の運転上必要な注意を怠り,よって人を死傷させた者は,7年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます(自動車運転死傷行為処罰法第5条)。
前方不注視やスピード違反などの過失により,自動車事故で人を負傷させたり,死亡させたりする場合に成立します。
~無免許による加重~
以上の罪を犯したときに無免許運転だった場合は,更に刑が重くなります(自動車運転死傷行為処罰法第6条)
~弁護活動の例~
1 示談交渉
人身事故は,被害者がいる犯罪であるため,示談が締結できるかどうかが処分を決める上で重要な要素になります。示談できれば,被害が償われたということで,不起訴処分で事件が終わるということも考えられ,初犯かつ被害が軽微であったり,過失の態様が軽微であったりする場合は罰金で済むことも考えられます。
もっとも、被害者が強い被害感情を持っていたりすると,自ら交渉を行うのは困難であり,示談ができたとしても不相当に過大な金額での示談解決になる可能性もあります。
これらのような場合,弁護士を通じることで,弁護士が捜査機関から連絡先を教えてもらうことで被害者と示談交渉をすることが可能になります。また,弁護士が間に入れば,被害者の感情も和らぎ,妥当な金額での示談解決も図りやすくなります。
危険運転致死傷罪や発覚免脱罪は,刑事事件の中でも重い法定刑が規定されています。そのため,示談したとしても,正式裁判を免れることは難しいでしょう。しかし,示談したことは量刑を軽くする事情にはなるので,示談は重要といえます。
弁護士は,人身事故・死亡事故に至った経緯や動機,当時の状況,その他の事情を精査し全体像を把握した上,適切な弁護方針をご案内いたします。逮捕直後から,人身事故・死亡事故に強い弁護士が弁護を引き受けることで,一貫した弁護活動を行うことができます。
2 早期の身柄解放活動
逮捕・勾留された場合,弁護士は,早期の身柄解放のために,証拠隠滅や逃亡のおそれがないことを示す客観的証拠を収集し,社会復帰後の環境を整備するなどして身柄解放を目指します。
3 環境調整
重大事故を起こした場合や交通事故の前科がある場合は,運転免許を返納した上で車を売却する等の検討も視野に入ってきます。また,職場の近くに転居するなど車を使わなくても生活できるよう環境を調整していく必要があります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,刑事事件を中心に取り扱う事務所として,刑事事件の経験が豊富な弁護士・スタッフが在籍しておりますので,人身事故・死亡事故についてのご相談がございましたら,弊所にご相談ください。