~危険ドラッグ・脱法ドラッグ~
店舗やインターネット上で,「合法ハーブ」「お香」「アロマ」などと称する商品が販売されてていますが、これらの商品は,法律で規制されないよう覚醒剤,麻薬,大麻など規制薬物の化学構造に似せて作られている物もあり,規制薬物と同等の作用を有する成分を含む商品が多く,大変危険です。こうした商品を使用した人が,意識障害,嘔吐,痙攣,呼吸困難等を起こして,死亡したり,交通事故を起こしたりする事件が多発しています。
そこで,こうした危険な薬物による被害を防ぐため「医薬品医療機器法」により,中枢神経系の興奮若しくは抑制又は幻覚の作用を有する蓋然性が高く,かつ,人の身体に使用された場合に保健衛生上の危害が発生するおそれがある物質が指定薬物として,医療等の用途に供する場合を除いて,その製造,輸入,販売,所持,使用等が禁止しています。
旧薬事法では、指定薬物の輸入,製造,販売,授与,販売若しくは授与目的での貯蔵又は陳列については禁止されていましたが,所持,使用等について特段の規制がなく,指定薬物を含む脱法ドラッグを安易に入手し使用する事例が数多く報告され,急性毒性や「依存症候群」等の精神症状を発現した事例,交通事故等による他者への危害事例が頻発しました。
そこで、このような状況を改善すべく,平成25年2月,合成カンナビノイド類を指定薬物として包括指定したことに加え,平成26年4月より,指定薬物の輸入,製造,販売等だけでなく,所持,使用,購入,譲り受けが新たに禁止されました。
~危険ドラッグ・脱法ドラッグの危険性~
危険ドラッグには,興奮・覚醒作用がある覚せい剤類似物質(アッパー系)と、沈静・幻覚作用がある合成大麻(ダウナー系)の両方が配合されていることがあり,また,それらの配合比率も商品により異なっているので,使用によりどんな作用が発生するか予測できません。
そのため,意識障害,嘔吐,けいれん,呼吸困難等を起こして死傷者を伴う大きな交通事故を起こしたり,最悪の場合には死につながることもあります。
~刑罰~
1 医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性等の確保に関する法律による処罰
(1)医薬品医療機器等法76条の4,84条26号
指定薬物について,医療等の用途以外での製造,輸入,販売,授与,所持,購入,譲り受け,使用が禁止されています。違反すると,3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金,又は両方が併科されます。
(2)医薬品医療機器等法83条の9
業として,指定薬物の製造,輸入,販売,授与し,又は,所持(販売や授与をする目的で貯蔵し,陳列した場合に限る)した場合には,5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金,又は両方が併科されます。
(3)医薬品医療機器等法76条の5,85条9号
指定薬物の広告は,医薬関係者や医療等用途に使用するものを対象として行う場合を除き禁止されています。違反すると,2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金,又は両方が併科されます。
(4)医薬品医療機器等法76条の6第1項,87条15号
指定薬物である疑いがある物品,及びそれに加え指定薬物と同等以上に精神毒性を有する蓋然性が高い物である疑いがある物品の貯蔵・陳列している者,製造・輸入・販売・授与した者に対して,検査命令を出すことができます。検査命令に違反した場合は,50万円以下の罰金です。
(5)医薬品医療機器等法76条の6第2項,86条23号
検査結果が出るまでは,当該物品や同一の物品を製造・輸入・販売・授与,販売又は授与の目的で陳列し,広告してはならない旨を併せて命じることができます。命令に違反した場合には,1年以下の懲役又は100万円以下の罰金です。
2 関税法による処罰
危険ドラッグの濫用者による交通事故や,2次的犯罪の増加が深刻な社会問題となってきたことを背景とし,平成27年4月1日より,関税法においても新たに指定薬物の輸入が規制対象とされ,重い罰則が設けられました。医薬品医療機器等法に基づき指定される指定薬物を輸入した場合,10年以下の懲役,3000万円以下の罰金,又は両方が併科されます(関税法109条1項,69条の11第1項1号の2)。
3 薬物乱用防止条例による処罰
東京都を皮切りに,国の指定が追いつかない現状から,愛知県や大阪府などで,通称「薬物乱用防止条例」を制定し,該当都道府県では規制が強化され、処罰を受けることがあります。
4 自動車運転死傷行為処罰法による処罰
危険ドラッグを使用し,正常な運転が困難な状態で,自動車事故をおこし,人を死傷させた場合,薬物運転致死傷罪が成立します(第2条1号)。
罰則は,人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し,人を死亡させた者は1年以上の有期懲役となります。
なお,運転前は正常な運転が困難な状態に至っていなくても,正常な運転に支障が生じる恐れがある状態で運転開始し,運転中に正常な運転が困難な状態になって事故を起こした場合も,準薬物運転致死傷罪が成立します(第3条1項)。
罰則は,人を負傷させた者は12年以下の懲役に処し,人を死亡させた者は15年以下の懲役となります。
~弁護活動の例~
1 執行猶予獲得のための活動
初犯の事件の場合,再発防止策を講じることで執行猶予になる可能性はあります。しかし,繰り返し薬物犯罪を起こしている場合には,厳しい判決が予想されます。
執行猶予判決の獲得へ向け,被疑者本人の真摯な反省や薬物依存症への治療,家族などの監督環境を整える等して,社会の中で更生するべきであることを説得的に主張していきます。
2 無罪主張
例えば,危険ドラッグの所持や譲り渡し等の事件では,たとえば中身を知らされず運ばされた場合のように,違法な物とは知らずに行った行為で摘発されることがあります。
違法性の認識については,それが危険ドラッグであるという認識までは要求されず,違法な薬物であるという程度の認識で足りるとされているため,知らなかったという弁解はなかなか通用しませんが,違法薬物でないと確信していた場合には,犯罪が成立しないのですから,客観的な状況をもとに無実であることをしっかりと主張する必要があります。
3 身柄解放活動
危険ドラッグ・脱法ドラッグに関する犯罪をしてしまった場合でも,証拠隠滅の恐れがない・逃亡の恐れがないことなどを客観的な証拠に基づいて積極的に主張します。こうした活動は,逮捕・勾留されている方の早期釈放・保釈につながります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,刑事事件を中心に扱う事務所として,刑事事件の経験が豊富な弁護士・スタッフが在籍しておりますので,危険ドラッグについてのご相談がございましたら,弊所にご相談ください。